2015年7月18日土曜日

wilsonic works 52


高知出身の女性4人組バンド、sympathyの2ndミニアルバム、
『トランス状態』が7月15日にリリースされた。
収録曲全6曲のうちM1〜M5の5曲に、ディレクション&共同プロデュース
という形で関わった。

彼女たちのキャッチコピー、“超絶無名バンド”って誰が考えたんだろう?
確かに、昨年リリースの1stミニアルバムが大きな話題になったわけでもないし、
ライヴハウス・シーンで注目されているわけでもない。
オフィシャルに載っているインタヴューなどでこれまでの経緯を語っているので、
なぜ彼女たちが超絶に無名なのかはそちらで把握していただくとして。

彼女たちが現在の事務所に入るきっかけとなった東京での
1回きりの2014年夏のライヴ、実は僕も偶然?観ていた。
8月18日の渋谷O-Crest。
このとき、その会場に僕が目利きと認識している音楽業界人が
最低2名いたことも覚えている。
その事実だけで「あれ、このバンドなんかあるのかな?」
という匂いを感じ始めていた、ような。

ちなみに僕はライヴを観たら必ず感想をメモしているのだが、
彼女たちに関しては、ドラムとギターのプレイの素朴さに触れつつ、
「vocalの子のシャウトと歌詞に未来あり」と結んでいる。

その、1枚のミニアルバムと東京での1回きりのライヴという実績のみで、
現在の所属事務所の社長は彼女たちにアプローチし、
ビクター内の新レーベルconnectoneからのリリースも決定。
これ、まずフツーはあり得ないトントン拍子の展開だ。
しかも本人たちはそういう活動を特に望んでいなかったにも関わらず。

今年に入り、まずはミニアルバムをリリースしよう、と決まったはいいが・・・。
二人が高知在住、一人が東京、一人が滋賀という距離。
加えて全員が学生であるため、平日はまず活動することが出来ない。
まとまってレコーディングするには、春休みを利用するしかない、
ということで3月にプリプロ〜レコーディングを行った。

最初は基本的な音楽用語を教えて共通言語を持つところからスタート。
もしかして相当大変なことになるのかなあ、と覚悟をしていたが、
僕はその後、彼女たちの恐るべき吸収力、理解力に舌を巻くことになる。
日を追うごとにミュージシャンとして成長し、
覚えたことを確実に実践し、さらに工夫する。

ドラムテックは元HOW MERRY MARRY河添将志くん、
ギターテックにはTHEラブ人間エドガー・サリヴァン坂本遥くん。
現役のバンドマンである二人がいてくれたおかげで、
メンバーはとても安心してレコーディングに臨めたと思う。
河添くんは頼もしいし、遥くんは若いのに教え方が上手。

メンバー4人は仲良しではあるが、決してなあなあになることはない。
遠慮をせずに意見を言い合い、sympathyというバンドの
アイデンティティを確認しながら進めて行く。
これ、なかなか出来ないこと。メンバー同士でも遠慮してしまったりする。
でもこれが出来ていないと、バンドってものは長続きしないんです。

そして、僕はそんな彼女たちの2015年春時点の姿を、
鮮度を損なわないように記録することに専念した。
彼女たちがやりたいことを、僕なりの解釈でプレイや音色などに
関してアドヴァイスをするだけ。
過剰なお化粧やお仕着せのアイディアは必要ない。
だって、彼女たちが考えたこと、思いついたことを
実行するのが、いちばん面白いんだから。

たとえば。

sympathyの曲には、テンポチェンジやブレイクが頻繁に出てくる。
譜面で会話しない彼女たちが、言葉とメロディと自分たちの奏でる
音に寄り添ったときに、自然に生まれるものなんだと思う。
それは曲にとって必然で、全体を通して聴いてみると、
「なるほどなー」と感心することが多かった。
曲にも、詞にも、アレンジにも演奏にも、物語があるのだ。

ま、そういう作りなので、多くの曲はクリックを使わず(使えず)、
リズム録りもダビングもちょっと苦労しましたけど。

今作のエンジニアの田中俊介さんとは、久々の再会だった。
彼は以前青葉台スタジオにいて、スピッツの『スーベニア』という
アルバムで、1枚まるごとアシスタント・エンジニアを務めてくれた。
それ以来、約11年振りのお仕事。
ま、この年齢になると、10年なんてついこの前なので、
すぐに昔のテンポを思い出し、とても良いリレーションで
仕事ができたんですけどね。

ここでの再会が存外に良い感触だったので、実はその次に入ってきた
新規プロジェクトのレコーディングも、田中さんと行ったのだ。
縁というのは不思議なものだなあ、と改めて。

さてさて。
マスタリングまで足掛け3ヶ月(何せ、4人集まれる日が限られている)
という期間で出来上がった2ndミニアルバム『トランス状態』。
6曲目「あの娘のプラネタリウム」は、バンドが初めて作ったオリジナル曲とのこと。
この曲だけ出羽良彰さんのサウンド・プロデュース&編曲で、
流石のサウンド・クオリティ。

通して聴くと、1曲の中のストーリーとはまた違う、
6曲全体で語られるストーリーが見えてくる、そんなアルバムだ。

アルバムのアルバムのダイジェスト映像はこちら
リード曲「さよなら王子様」のMVはこちら

隙間いっぱいの音作りは、今どきの主流とは違うかもしれないけど、
彼女たちにしか作れないオリジナルなサウンド。
どうか、超絶無名から、有名バンドへ羽ばたいてくれー!

つーか早く東京でライヴ観たいので、その辺ひとつよろしく。

※大阪で8月21日にフリーライヴ決定。なんと、BIG CAT!
詳細はオフィシャルでチェック!

p.s.
sympathyの音楽は作詞作曲も含めてメンバー4人で作り上げるのだが、
大きく分けてヴォーカルの柴田さん主導の曲と、
ギターの田口さんが主導の曲に分かれる。

柴田さんが中心となって作った曲は、
迷いの無い一筆描きのような思い切りの良さがある。
対して田口さんは、繊細でアンビヴァレントな感情を、
これしかないというところまで考えたメロディと言葉で綴る。

そういう音楽を、柴田さんはときに可愛らしく、
ときに素っ気なく、ときにいたずらっぽく、ときに悪ぶって歌う。

そうだ、びっくりしたことがあった。

レコーディング中のあるとき、柴田さんが、
「なんか、歌っていると自分が作った曲か(田口)かやなの曲か、
わからなくなるよね」というような主旨だった。

そんな人、柴田さんしかいないよ。
自分で曲を作る人が、他の人が作った曲を歌うとき、
何かしらの違和感(とまでは云わないまでも、違い)を
感じないとしたら、それは奇跡だ。
sympathyのメンバーはそれだけ一心同体、ということなのか。

いやはや、これからの展開が全く予想できないけど、
こんなバンド、いろんな意味で前代未聞。
未来に期待しかないっす。

2015年7月8日水曜日

wilsonic works 51


7月8日はPERIDOTSの4枚目のオリジナル・アルバム『PEAK』の発売日。
セルフ・カヴァー・アルバムの前作『TIMEPIECE』に続いて、
ディレクターとしてアルバム・レコーディングに立ち会った。

前作もそうだけど、PERIDOTSの場合、ディレクターといいながら
僕はほとんど仕事らしきことをしていない。

もちろん曲選びとか、レコーディング前のミーティングや、
メールでのやりとりなどして、意見や感想を伝えるし、
全てのレコーディングに立ち会って、その進行を確認した。

ディレクターというよりは “Morale Booster”のほうがしっくりくる。
意味合いとしては、士気を高めるもの、くらいの感じ。
Roger Nichols and the Small Circle of Friendsの1stアルバムに、
Van Dyke ParksRandy Newmanなどがこのクレジットで入っている。
実際当時Van Dykeらがどんな形でMoraleをBoostしたのかは
わからないけど。

曲作りの段階、アレンジの最中、レコーディング現場に僕がいる。
その都度、客観的な意見、違う角度からの見方などを提供し、
刺激なり意欲増進なりをする、というような役割。
なのではないか、と。

まあ僕の役割なんてどうでもいい。
このアルバムの密度、相当なことになっているので、そのことを。

今回、プロデュースはPERIDOTSことタカハシコウキ本人と久保田光太郎さん。
アレンジも基本全編光太郎さん。
ドラムスに中畑大樹さん、ベースにFIREさんというお馴染みの
チームでのリズムでレコーディングした曲もあれば、
これまたお馴染みの浦清英さん、河野圭さんのピアノを
フィーチュアした曲もある。

でも、なによりも。
久保田光太郎という音楽家が、これまでの経験値と
永年のPERIDOTSとの歴史を踏まえて、
考えに考え抜いたアレンジが全曲で炸裂している。
それがまずすごい。

全体のバランスを考えながら、各曲に見合ったアレンジを施す。
そのアレンジを活かす最良の楽器を選び、最高の音色を探り、最善のプレイをする。
ちょっと違うかなと思ったら、根本まで戻って考え直す。
言葉、メロディ、歌い方、曲毎のマイク選び、
全てに妥協無くトライする姿勢。
久保田光太郎、タカハシコウキ、エンジニアの渡辺敏広のトライアングルは、
上記のような取り組み方でレコーディングを進め、
結果『PEAK』は、とてつもない密度のアルバムとなった。

本来当たり前のことなんですよ、音楽を作るに当たってこういう姿勢で臨むのは。
でも昨今、レコーディングというものがカジュアルになり過ぎて、
こういった本来の姿勢が忘れられている現場が多い。

誰でも安価で、簡単に録音が出来るような世の中になったのは、
全体のパイを広げたり、敷居を低くするという意味では
歓迎すべきことなのだろうが、その弊害も同じくらいあるわけで。

ま、この辺のことはいつかまとめて書きます。

『PEAK』に収録された全10曲。
よく、“ヴァラエティに富んだアルバム” なんていうけど、
それはこのアルバムにこそ相応しい形容だと思う。
詞もメロディもアレンジも、ここまで振り切ったアルバムはなかなか無い。
それでいて聴きにくいわけではなく、肌触りはとてもポップ。
密度は濃いけど、暑苦しくはない。
なんなんだろう、これ。

音楽が好きな人が、より音楽のことを好きになる、
そんなアルバムなんじゃないかと思う。
音楽って、まだまだ可能性があるんだなって。

そんなことを思った。

今までのPERIDOTSを知っている人も、
PERIDOTSを全然知らない人も、
このアルバムを通して聴いたら、ちょっとびっくりすると思うんだ。

たくさんの人に、届いてほしい。

p.s.
PERIDOTSのマスタリングは、これまではほぼLAのStephen Marcussenだったが、
『PEAK』 はロンドンのMetropolis MasteringTim Youngによるマスタリング。
7曲目の「Tomorrow My Friend」で、その起用の意味がストンと腑に落ちる。
同業者の方、ぜひともその辺、聴き取って感じてもらいたいっす。

p.s. 2
タカハシくんと光太郎さんが全曲解説をしながらアルバムを試聴する
スペシャル対談の映像はこちら。サブテキストとして、どうぞ。

2015年7月2日木曜日

wilsonic works 50


2015年も後半に突入。

今週7月1日にスピッツのライヴ映像作品(DVD & Blu-ray)、
『JAMBOREE 3 “小さな生き物”』が発売された。
ライヴ映像作品に “JAMBOREE”の名を冠するのは、
2001年の編集盤『ジャンボリー・デラックス』以来。
『3』の前、『JAMBOREE 2』に至っては1999年だ。
16年振りのシリーズ第3弾、というわけだ。

“JAMBOREEシリーズ” がどんな意味合いを持つのか、厳密な定義は
特に無いのだが、なんとなく “ホール公演の映像作品” なのかな、と思っている。
ここ数作のスピッツの映像商品は、スペシャルなアリーナ公演を中心としたもの
が続いていたので、タイトルもスペシャルなものとなっていたが、
今回は1アルバムのツアーの中の1日を切り取ったもの。
スピッツがアルバムのリリース毎に行っている、
全国くまなく回るステージをパッケージングした、という形。
それが、『JAMBOREE 3』というタイトルを呼んだのだろう。

そして本作品は、ホール公演としては初めて本編を全編収録している。
これまで、アリーナ公演で同趣向はあったが、ホールでは今回が初。
「SPITZ JAMBOREE TOUR 2013-2014 “小さな生き物” 」
題された、全53本に及ぶツアーの1日がしっかりと記録されている。

2014年2月18日、火曜日。
大宮ソニックシティ。
ツアー中盤の25本目。
大宮でしか観られないアレも、遂に収録。

この映像で、スピッツのレギュラーなホール公演がどういうものか、
わかっていただけると思う。
メンバーの佇まい、ステージ美術、照明、曲順のあり方、などなど。

派手な演出や煽りの類いとは無縁だが、
どれもが本当によく考えられており、練られている。
決して保守的になることなく、新しい要素、サプライズなども潜んでいる。
このツアーで僕は恐らく全国で20本くらいを観ているはずだが、
全く飽きることは無かったし、古くから知っているはずの曲の、
新たな魅力に気付いたりすることもあった。

そして、ホール・コンサート特有の、親密な雰囲気。
この距離感。
スピッツが、なぜある時期まで、頑に武道館などのキャパの大きい会場で
コンサートを行わず、ホールでの公演にこだわっていたのか、
この映像を観てもらえると少しわかってもらえるのではないだろうか。

武道館を拒んでいたのは、ちょっと違う意味もあるんだけどね。

ともあれ。

大変お待たせいたしました。
スピッツ、本当に久しぶりのフィジカル・リリースです。
なんと、アルバム『小さな生き物』以来なので、約22ヶ月ぶり
『放浪隼純情双六』は再発なので、新作としては)。
じっくり、何回も楽しんでいただけたら幸いです。

p.s.
劇場公開のみの映画『スピッツ 横浜サンセット2013 -劇場版-』は、
8月末から9月上旬の横浜ブルク13での最終上映に向けて、
現在アンコール、追加上映継続中です。
お見逃しの方、もう一度観たい、という方は、この機会に是非。
詳細はこちらをご覧ください。

p.s. 2
wilsonicという屋号を名乗ってもうすぐ6年。
携わった作品がこのDVD & Blu-rayで50となった。
ちょっとだけ感慨深い。
もう少し頑張ろうと思った。