2016年6月18日土曜日

wilsonic works 64


6月15日にリリースされた、Official髭男dismのミニアルバム、
『MAN IN THE MIRROR』にディレクターとして参加した。

まずはバンドのプロフィールを簡単に。

2012年にバンド結成したピアノ・ポップ・バンド。
山陰をベースに活動を続ける。
2015年に初の全国流通盤、『ラブとピースは君の中』をリリース。
全国的には未知の存在ながら “タワレコメン” に選出されるなど、
その高い音楽性、ポップな質感が、このリリースによって俄然注目される。
2016年、活動の拠点を東京に移す。

全員が上京してすぐにこのアルバムのレコーディングがスタートしたのだが、
レコーディングしながらいろんなことをすぐさま吸収し、成長する姿を見て、
その理解力、咀嚼力にびっくりしたものだ。

やりたいこと、鳴らしたい音、目指す完成形がわかっている。
その理想に向かって、試行錯誤と取捨選択をしていく。
メンバー同士でも提案したり、相談したりするし、
エンジニアの古賀健一くんや僕が、アドヴァイスしたり選択肢を提示したり。
密度が濃く、とても充実したレコーディングだった。
僕もたくさん勉強させてもらった。

彼らの良いところはたくさんあるのだが、何より素晴らしいのは、
アカデミックな意味での音楽的知識を充分持っているのに、
出来上がったものが頭デッカチな音楽になっていないこと。
これ、とても重要。
それは彼らの音楽が身体を伴っているから。
センスや知識が先行する、リスナー体質の音楽ではないのだ。
だから聴いていて痛快なの。
考える前にカラダが反応しちゃうの。
「生演奏」の質感を大事にした音作りもとても心地よい。


個人的には、歌入れがとても楽しかった。
僕のオールドスクールな歌入れのスタイルも、
彼らの志向性とマッチしたみたいで何より。

オールドスクールな歌入れとは、プロトゥールス普及以前のスタイル、
とでも思っていただければ、と。

ちょっと脱線。

最近、デヴィッド・ボウイとの仕事で知られる音楽プロデューサー、
トニー・ヴィスコンティがアデルとちょっともめたニュース
あったけど、彼が言う通り、今どきの音楽の大半は、演奏にも
ヴォーカルにも何らか機械的な処理がされている。

新しいハードやソフト、プラグインや概念などが、
新たな音楽的刺激をもたらすことがある。
新しい音楽のジャンル名が出てくるときに、こういった新しいテクノロジー、
もしくは今までと違う使い方を発明することがきっかけとなることは多い。
ポピュラー音楽の歴史、進化は、テクノロジーの発達と切っても切れない関係にある。
それは確か。

しかし、だ。

テクノロジーを、新しい音楽をクリエイトしようという意志を持たず、
単に「便利なツール」として「安易に」使うことが昨今非常に多い。
そしてそのことによって音楽としての強度が減ってしまっているのが問題。
やり直せたり、取り返しのつく作業に、緊張感など入り込む隙はないものね。

あんまりくどくど書きたくないけど、少しだけ。

「便利なもの」は、「安易に」使ってはいけないんです。
慎重に使いましょう。
じゃなければ大胆に使いましょう。
そして「便利」が「当たり前」だと思わないほうがいい。
これは音楽に限った話じゃないよ。

あと、「音楽」は「見た目」じゃない。
これ、レコーディング現場のモニターの話ね。
画面を見て音楽を判断することに馴れてはいけない。
耳で聴いて思ったことを最優先せよ。

そんなわけで、僕のオールドスクールな歌入れは、
あまり最新の便利なテクノロジーを使わずに行われている。
必要以上にツルンとした質感の歌が多い昨今の音楽の中で、
Official髭男dismのヴォーカル藤原聡くんの、
リアルな息づかいが感じられる生々しい歌声は、どう響くのだろう。

ニュー・アルバム『MAN IN THE MIRROR』のリード・トラック、
「コーヒーとシロップ」のMVはこちら

ちなみにこのアルバム、iTunesで2週間先行リリースしたところ、
メンバーが目標としていたiTunesのアルバム・チャート1位を、
見事獲得している。
満を持してのフィジカル・リリース、というわけだ。

ご機嫌なアップテンポから切ないスローバラードまで、
詞も曲もアレンジも演奏も、更に研ぎすまされた全6曲。
ポップスのミラクルに溢れたアルバム『MAN IN THE MIRROR』、
Official髭男dismの伝説、ここからスタートです。


2016年6月14日火曜日

wilsonic works 63


6月9日の札幌ベッシーホールからスタートした、モノブライト
レコ発ツアー、“Bright Ground Music 〜B.G.M〜 Tour。
このツアー会場限定で販売されるシングル「bonobonoする」に、
アルバムに続いて共同プロデュース、ディレクションで参加した。

レコーディング自体は、アルバム『Bright Ground Music』の
作業とほぼ地続きだった。レコーディングに関わったメンツも
基本的にアルバムと同じ。
ただ、この曲はタイトルでも類推できるように、この4月からスタートした
フジテレビのアニメ、『ぼのぼの』の主題歌として書き下ろされたもの。

海と森を舞台にした『ぼのぼの』の世界を描写するように、
基本的にアコースティックな楽器と声だけで構築された「bonobonoする」。
エレクトリック・ギターを中心としたモノブライトのいつものサウンドとは、
ひと味違う仕上がりとなっている。

ツアー会場に行ける向きは、ぜひともこのワンコインCDをご購入し、
新しいモノブライトの音世界をお楽しみいただければ、と願います。

このツアー、残るは15日(水)は大阪、梅田CLUB QUATTRO、
17日(金)はファイナルの東京、恵比寿LIQUIDROOM。


さて、ここで “ライヴ会場限定CD” に関して少し書いてみようと思う。

最近の若者(若者に限らずだけど)は、まずCDを買わない。
いや今の時代、CDとは言うまい。「音源」を買わない。
音楽を「買う」という行為をしない。

「音楽が好きです」という人も、YouTubeサーフィンをするくらい。
Apple MusicAWALINE MUSICなどの有料会員だったらもう偉いレベル。
まあ、若いミュージシャン、バンドマンからして滅多にCD買わないしね。
CD買わないイコール、CDショップ、レコード屋に行かない、ということ。
だからいくら店頭でプッシュしていても、行かない人たちには一切届かない。
ライヴよく行く人でも、音源を買うという行為になかなか至らない。

音楽を買わない人を非難しているわけではない。
ただ時代がそうなっている、ということをちょっと悲しい思いで書いているだけ。

でも、ライヴ会場限定でCDを売っていたら?
これ、買う可能性高いと思うんですよ。
好きなアーティストのライヴに行って、その会場でしか
買えない音源があったら、買うでしょ。
好きなアーティストがライヴ会場でしか買えないCDを
リリースするなら、CD買いたいからライヴ行くでしょ。

初めて観たバンドのライヴがすげー良くて、しかも自分が
とてもいいと思った曲が会場限定のCDとして売られていたら、
そりゃ買うでしょ。
お金に余裕があればね。
そしてCDを再生するなりリッピングするなり出来る環境にあればね。
なんならCDというフォーマットじゃなくてもいいわけで、
それは今後の音楽の聴き方の主流に則れば良いだけのこと。

これからの(もっともっと音楽が売れなくなる)時代、
会場限定CDとか、ファンやファン予備軍に向ける売り方は有効だと思う。

あと、これからの(もっともっと音楽が売れなくなる)時代は、
大きな意味でパトロナイズが音楽を支えて行くと思われる。
会場限定CDは、そういった側面も持ち合わせるのではないか。
やり方によってはね。

いろんな意見が飛び交うクラウド・ファンディングも、僕は
やり方次第でいろんな可能性が見出せると思っている。

おっとこの調子で書き続けると止まらなくなる。

“音楽とパトロナイズ” に関しては、まだまだいろんなことを
考えなきゃいけないので、今日はこの辺にしときます。
またじっくり、改めて。

p.s.
アニメ『ぼのぼの』の原作である漫画『ぼのぼの』(いがらしみきお)は、
1986年の漫画雑誌連載スタート時から大好きな漫画だった。
30年経って好きな漫画のアニメ化、その主題歌に関われるなんて。
ちなみに、数年前谷澤智文くんから教えてもらった、いがらしみきおの
『羊の木』という漫画(原作:山上たつひこ)は衝撃だった。
『ぼのぼの』からは考えられない絵柄とストーリー。
個人的にここ数年でいちばんハマった漫画だった。
万人にオススメとは言えないけど・・・。